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リペアと入力コントロール

リペア系のコントロールは、トーン処理/ダイナミクス/ステレオ処理/リミッティングに入る前の素材を整える役割です。ノイズや生成由来のアーティファクト、極端なレベルを持つ素材でとくに効果を発揮します。

このページではインプットゲインとディノイズ量をまとめて扱います。どちらも「音を良くする」ための主役ではなく、後段が正しく働くように条件を揃える前処理として位置づけています。

インプットゲイン

インプットゲインは、マスタリングチェーンが反応する前のレベルを調整します。元音源が極端に小さい、またはすでに大きすぎる場合を除き、まずは 0 dB のままにしておくのが基本です。

小さすぎる音源では、コンプレッサーやエキサイターが十分に反応しません。大きすぎる音源では、後段が早い段階で抑え込みすぎます。インプットゲインを大きく上げてラウドネスを稼ごうとしないでください。最終的なラウドネスはラウドネスオプティマイザーとリミッターの担当です。入力段で無理にレベルを上げると、コンプスレッショルドの意味が変わり、プリセットが想定するバランスから外れてしまいます。

ディノイズ量

ディノイズ量は、リペアステージが定常的な背景ノイズをどれくらい抑えるかを決めます。ヒスノイズ、低レベルの広帯域ノイズ、一部の生成音源に残るノイズ成分に対して有効です。

まずは小さい値から始めます。ドラムがにじむ、アタックが鈍る、水っぽいアーティファクトが出る、といった副作用が出るくらいなら、少しノイズが残っているほうが自然に聞こえることが多いです。

少し残るノイズは、にじんだドラムよりまし

ノイズが気にならなくなった時点で止めます。これ以上ディノイズを上げると、シンバルテイルが揺れ、ルームトーンが吸い込まれ、ボーカルの息遣いが途切れます。またインプットゲインでラウドネスを稼がないでください — それはオプティマイザーとリミッターの役目で、入力段を大きく動かすと後段すべての検出器が見る信号が変わります。

A/B PROCESS · DENOISEIDLE
デノイズ修復 — 修復前と修復後

きれいなコードに広帯域のヒスノイズを乗せたものが「修復前」、リペアステージで取り除いたものが「修復後」です。平均スペクトルを重ねて表示しており、持ち上がった高域のフロアがヒスノイズで、デノイズすると音楽の上に落ち着きます。Compare を切り替えると同じラウドネスで聴き比べ、アルゴリズムを変えるとフロアの下がり方の違いが分かります。FLOOR は高域の低減量(dB)です。

比較
アルゴリズム

戻すべきサイン

ディノイズを上げた後に、シンバルテイルが揺れる/ルームトーンが不自然に吸い込まれる/ボーカルの息遣いが不自然に途切れる、といった現象が出たら、リペアが音楽成分まで削っています。ノイズは「完全に消す」ものではなく、「聴取上の邪魔を減らす」ものとして扱います。

インプットゲインを動かした後にコンプレッサーやリミッターの反応が大きく変わったときも、まずはインプットゲインを元に戻します。入力段の変更は後段すべての検出器に入る信号を変えてしまうため、ラウドネス稼ぎの目的で動かすとチェーン全体の判断が崩れます。

判断の順序

  1. まずインプットゲイン 0 dB のままレンダリングする。
  2. メーターで入力ピークとクレストファクターを確認する。
  3. 極端に小さい素材だけ、少しインプットゲインを上げる。
  4. 無音区間や曲頭でノイズが気になる場合のみ、ディノイズ量を上げる。
  5. ディノイズを上げた後は、ドラム・子音・リバーブテイルが不自然になっていないかをチェックする。

AI 生成音源では、ノイズと音色の境界が曖昧なことがあります。完全に消そうとすると音楽成分まで削れてしまうため、「気にならない程度まで抑える」ことを目標にします。

実装メモ

リペアが有効なとき、デモはディノイズ設定をワーカー経由で libsonare の WASM に渡し、スペクトル処理が UI スレッドを止めないようにしています。現状の構成では FFT フレーム単位の処理と、控えめなゲインフロアを採用しています。ディノイズ量を上げると、このフロアが下がり、ノイズ推定後の抑圧量が強くなります。

インプットゲインの可動範囲は意図的に狭くしています。最終的なラウドネスは LUFS オプティマイザーが担当するからです。入力段で大きく動かすとコンプスレッショルドの判断が難しくなり、リミッターにも不要な負担がかかります。

関連: マスタリングとは?, トーンと Air コントロール