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True Peak

True Peak は、信号を再生したときに実際に到達する最大レベルを推定する考え方です。デジタル音声は離散したサンプル点の連なりとして記録され、再生時にはその点をなめらかにつないで連続した波形へ戻します。こうして再構成された波形は、隣り合う 2 つのサンプルのどちらよりも、その間で高くなることがあります。True Peak はこの「点と点の間の最大値」を推定します。

サンプルピークが 0 dBFS 未満でも、変換や再生時の再構成でクリップすることがあります。これがサンプル間ピーク(ISP: inter-sample peak)と呼ばれる問題です。波形の点だけを見ると安全に見えても、その点をつないでアナログ信号として再生したときに、点と点の間で上限を超えることがあります。

LOUDNESS · TRUE PEAKIDLE
サンプル間ピーク — マスターが再生時にクリップする理由

ドットは保存されたサンプル、曲線はそこからコンバーターが再構成する連続波形です。中央の 2 つは山をまたいでいるので、そこでは真のピークがサンプルのあいだに落ちます。周波数がナイキストに近いほど 1 周期あたりのドットは減り、再構成はどのサンプルよりも高く伸びられます。ただし、はみ出し方は滑らかに増えるわけではありません。周波数によってはドットがちょうど山の頂点に乗り、差がゼロになります。サンプルピークを 0 dBFS まで上げると、真のピークがそれを超えます。保存された数値はどれも安全に見えるのに、再生すると信号はクリップします。この差こそ、トゥルーピークメーターが捉え、トゥルーピークリミッターが抑えるものです。

サンプルピーク
-0.3 dBFS
周波数(×ナイキスト)
0.48

実用的な出発点

一般的なリリース時のシーリングは -1 dBTP 前後です。dBTP はサンプルピークと同じ dB のスケールを、再構成後の波形に対して測ったものです。libsonare デモでは True Peak リミッターのステージを使い、Studio モードでシーリングとルックアヘッドを調整できます。

配信安全性の観点は True Peak 安全性 で詳しく説明しています。

-1 dBTP は万能の正解ではありませんが、配信エンコードや再生側の再構成で起きる余白を残す実用的な出発点です。より攻めたマスターではシーリングを上げたくなりますが、変換後の歪みや刺さる高域が増えるならラウドネスより安全性を優先します。

コントロール意味
シーリング許容する最大の再構成ピークレベル。
ルックアヘッドピーク到達前にどれくらい先読みできるか。
リリースピーク抑制後にどれくらい速く戻るか。

聴いて確認すること

True Peak の問題は、メーターだけでなく音でも確認します。歪みやすいのは、キックとベースが同時に鳴る瞬間、シンバルが大きいサビ、強いサチュレーション後のピークです。

シーリングを下げても音がほとんど変わらないなら、安全側の設定を選ぶ価値があります。シーリングを下げた途端にパンチが消える場合は、リミッターだけで解決しようとせず、前段のダイナミクス・サチュレーション・入力レベルを見直します。

メーターでサンプルピークが安全に見える素材でも、コーデック変換やデバイス側の再構成でピークは浮き上がります。

一般的な素材でおおよそ +0.5〜+1 dB、低域と高域が同時に走るような厳しい素材では +2 dB 近くまで上がることもあります。

リリース直前の検聴では、書き出した WAV だけでなく、想定する配信形式(MP3/AAC/Opus など)への一時変換版でもピーク挙動を確認します。

LUFS との関係

True Peak シーリングはラウドネス目標とは別の制約です。LUFS を上げたいからシーリングを上げる、という判断は危険です。シーリングを上げると一時的に大きくできても、コーデック変換や再生側の再構成でクリップしやすくなります。

ラウドネス目標に届かない場合は、まずリミッターがどれくらいゲインリダクションしているかを確認します。リミッターが常に深く動いているなら、シーリングではなく前段のインプットゲイン・コンプレッション・低域バランスを見直した方が自然に到達できることがあります。

実装メモ

True Peak 検出は、入力サンプルをそのまま見るサンプルピーク検出とは違い、信号をオーバーサンプリングして再構成後の波形の最大値を取ります。libsonare はこのオーバーサンプリングをポリフェーズ補間フィルターで行い、サンプル間の各位相での値を評価します。ポリフェーズフィルターはオーバーサンプリングの代替手段ではなく、その実現方法そのものです。倍率は 1/2/4/8/16 倍に対応し、デモの既定は 4 倍です。

デモのリミッターはルックアヘッドを持つため、ピークが出てから潰すのではなく、到達前にゲインリダクションを準備できます。ルックアヘッドを長くすると安全側になりますが、過度に長い値はトランジェントの印象を丸めることがあります。

実装上は、シーリング・ルックアヘッド・リリースを独立した見た目のコントロールとして出していても、体感上は相互作用します。シーリングが低いほどリミッターは働きやすく、ルックアヘッドが短いほど速いピークに弱く、リリースが不適切だとポンピング感やトランジェントの丸まりにつながります。

関連: True Peak 安全性マスタリングLUFS